S T O R Y
原点は、一冊のタイポグラフィの本でした。
私は30年以上、グラフィックデザイナーとして、文字とデザインに向き合ってきました。
1990年代初頭。まだ駆け出しのデザイナーだった頃、勤めていたデザインプロダクションの社長が大切にしていた、一冊のタイポグラフィの本がありました。
そこに掲載されていたのが、ロンドンの交通機関のために生まれた書体〈Johnston〉と、バスの行き先案内表示でした。
装飾のためではなく、人を目的地へ導くという機能のために生まれた文字。
その合理性の中にある美しさに、強く惹かれたことを覚えています。
YEARS LATER
そして年月を経て、その文字ともう一度出会います。
とあるアンティークショップで、偶然一枚のタペストリーを目にしました。
黒地に並ぶ、大小さまざまな文字。
意図的にデザインされた文字組ではないのに、そこには機能から生まれた必然の構図がある。
「これは何に使われていたものなのだろう?」
調べてみると、それは英国の二階建てバス「ルートマスター」で使われていた行き先表示、いわゆる“バスロールサイン”でした。
そのとき、若い頃に眺めていたタイポグラフィの本の記憶と、目の前の文字がつながりました。
FROM SIGN TO BAG
文字を、もう一度使われるものへ。
バスロールサインを集めるうちに、その多くが役目を終え、失われていくことを知りました。
一方で、長い時間を英国の街で過ごしてきた文字には、新しい素材にはない表情があります。
「この素材を使って、鞄を作りたい。」
当時、自分自身が仕事で使う大容量のバッグを必要としていたこともあり、そこから最初のバッグづくりが始まりました。
グラフィックデザイナーとして文字の配置や余白を見ながらサインを切り取り、バッグという新しい形へ置き換えていく。
それが、SANS-SERIFの始まりです。
英国の文字と、日本のものづくり。
2016年、京都の鞄職人との出会いをきっかけに、SANS-SERIFは少しずつ形になっていきました。
一点ごとに状態も文字の位置も異なるヴィンテージ素材。その個性を生かしながら、一つひとつ仕立てていく。
英国で役目を終えた文字を、日本のものづくりによって、もう一度日常で使われるものへ。
ものづくりを、次の時代へ。
その後、長年製作をお願いしていた京都の職人さんが突然廃業され、SANS-SERIFにとって、ものづくりを続けること自体が難しい時期が続きました。
そんな中、新たに出会ったのが、大阪・堺で80年以上にわたり鞄づくりを続けてきた工場です。
長年培われてきた技術と、素材一つひとつに向き合う職人の手仕事。
現在、SANS-SERIFのバッグは、この堺の工場とともにつくられています。
2016 — 2026
英国の街で使われていた、一枚のバスロールサインから始まったSANS-SERIF。
隠れ家のような小さな店を拠点に、作り手とともに試行錯誤を重ねながら、バッグの形も少しずつ変化してきました。
けれど、10年間変わっていないものがあります。
文字そのものが持つ美しさを生かすこと。
使われてきた素材の表情を大切にすること。
そして、長く使い続けられるものをつくること。
これからはバッグという形にとどまらず、バスロールサインの文字を生かした、新たな表現にも取り組んでいきます。
P R O F I L E
KAZUYA FUJIKAWA
Founder / Designer
グラフィックデザイナー
東京のデザインプロダクションを経て、1994年、京都にグラフィックデザイン事務所「i.k.s design」を設立。
VI、広告、パッケージ、TV関連など、30年以上にわたりヴィジュアルデザインに携わる。
長年向き合ってきた「文字」への関心と、英国のヴィンテージ・バスロールサインとの出会いから、2016年 SANS-SERIFをスタート。
Graphic Design:i.k.s design
https://www.iksdesign.jp/
SANS-SERIF
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