2023/08/21 09:47
前回、私たちのブランド名 "SANS-SERIF" は突起のような飾りのない書体の総称で、
一つひとつの書体にはデザイナーがいることをお話ししました。
私たちのSANS-SERIFバッグの特徴はロンドンバスで実際に使われていた行き先案内のサインがそのまま使われていることです。
今回はそのバスサインの書体についてお話しようと思います。
バスサインで使われているのは「ロンドン地下鉄書体」、別名"ジョンストン・サンズ"と呼ばれる書体です。
公共のコーポレートアイデンティティ(CI)としても最も古く、表示機能を果たして来た代表的な書体と言えます。
デザイナーはエドワード・ジョンストン。(Edward Johnston 1872-1944)
ジョンストン・サンズは1916年、ロンドンの地下鉄の駅名や行き先表示用書体としてロンドン電鉄会社のために作られ、
今やロンドンの顔としても馴染み深い書体となっています。
また、ロンドンの地下鉄を指す赤い輪に青い横棒を引いたマーク、
通称ブルズアイ(bulls eye=牛の目)もエドワード・ジョンストンがデザインしました。
さらに日本人として大変名誉なロンドン地下鉄書体との繋がりも書き添えておきます。
1970年代、ロンドン交通局はジョンストンのサンセリフ体をそのまま使用し続けるか否かを検討しました。
1979年、Bank and Miles社の若き日本人デザイナー河野英一さんにより手直しが加えられ(しかも初仕事として!)、
今もエドワード・ジョンストンが作ったジョンストン・サンズ(New Johnston)が使われ続けているのです。
「ロンドンの交通機関に実は日本人の息吹が込められている。」こう思うと、
ロンドンという街や街の顔ともなっている書体に愛着が沸いてくるのではないでしょうか?
一つひとつの書体をデザインした人がいて、その書体が出来上がるまで悩み抜いた日々があり、
その文字がタイベックに刷られ、それが行き先案内となりバスに搭載されて80-90年代のロンドンを見てきています。
30-40年を経てそれらは京都へたどり着き、日本人の職人によって一点ずつ手作業でバッグに生まれ変わり、お客様の元へ届きます。
そしてそこから皆様と新たな旅が始まるのです。
SANS-SERIFのバッグはたしかにひとつのバッグではありますが「ただのバッグ」ではなく、
多くの先人たちがたゆまず重ねた日々と現代の知恵と業が京都で結晶したプロダクトです。
そのような歴史的価値のある書体を生み出したエドワード・ジョンストンに深い敬愛の念をバッグで表し、
お客様お一人おひとりにご自分だけのサンセリフバッグを見つけていただいて、
バスサインが見てきた当時のロンドンを身に纏いながら皆様の日常を楽しんでいただけたらと願っています。
(参考文献)
ジョンストンのロンドン地下鉄書体
ジャスティン・ハウズ著
後藤吉郎訳
烏有書林
2010年